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東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1525号 決定

抗告人 小寺健一

抗告人 江原伊佐雄

主文

一  原決定を取消す。

二  本件競落はこれを許さない。

理由

各抗告人はそれぞれ「原決定を取消す。」との裁判を求め、抗告人両名の抗告理由は別紙(一)、(三)、抗告人江原伊佐雄の抗告理由は別紙(二)のとおりであるので右主張について判断する。

抗告人両名が別紙(一)の抗告理由一ないし三において述べるところの要旨は、本件不動産競売申立の基本たる昭和五二年一二月二六日付金銭消費貸借の同日付設定契約を原因とする抵当権設定仮登記は、債権者坂本秋男と抗告人らが通謀してなした仮装のものであるから、これを基本として申立てた本件競売の申立は違法不当であるというにある。

しかしながら、右主張事実については何らの証拠がないばかりでなく、本件一件記録を検討してもかかる事実を認めうべき資料は全く存在しないので、右抗告理由は理由がない。

また、抗告人らが別紙(一)の抗告理由四において主張する事由が仮りにあったとしても、かかる事実は競売法第三二条第二項が準用する民訴法第六八〇条、第六八一条第二項、第六七二条所定のいずれの事由にもあたらないから、これをもって原決定を取消すことはできない。

次に、抗告人江原伊佐雄の別紙(二)の抗告理由一は適法な抗告理由にあたらないのみならず、本件記録とくに同記録中の浦和地方裁判所川越支部執行官佐藤正一作成にかかる不動産競売調書の記載に徴しても、抗告人主張のような事実を認むべき資料は全くない。また、別紙(二)の抗告理由二として主張する事実が原決定を取消すべき事由に該当するものでないことも明らかである。

次に、抗告人両名の別紙(三)の抗告理由等について検討する。

本件記録によれば、抗告人両名は昭和五四年一一月二日頃八王子簡易裁判所に対し本件債権者坂本秋男を相手方として民事調停(同裁判所昭和五四年(ノ)第七二号調停事件)を申立て、同裁判所から昭和五五年一月三一日付で右調停事件の終了にいたるまで本件競売事件の競売手続を停止する旨の不動産競売手続停止決定(同裁判所昭和五五年(サ)第四九号)を得たこと、抗告人江原は昭和五五年に中野簡易裁判所に対し本件記録添付債権者共栄建設株式会社(同債権者は東京法務局所属公証人岡田良平作成の昭和五三年第二、一三二号公正証書に基づき抗告人江原を相手方として原審に対し不動産強制競売を申立て、これは原審に昭和五三年(ヌ)第六五号不動産強制競売事件として係属したが、同事件は原審によって同年一一月三〇日付で本件に記録添付された。)を相手方として民事調停(中野簡易裁判所昭和五五年(ノ)第一二号調停事件)を申立て、同裁判所から同年二月一二日付で右調停事件の終了にいたるまで右債務名義に基づく強制執行を停止する旨の決定(同裁判所昭和五五年(サ)第六八号)を得たこと、抗告人らが前者の決定正本を同年一月三一日、後者の決定正本を同年二月一二日当裁判所に提出したこと、以上が認められる。

ところで、抗告裁判所は原決定後に生じた新たな事実及び抗告審に提出された証拠を参酌して審判すべきものであるところ、本件において右各執行停止決定のあった事実は競売法第三二条第二項によって準用される民訴法第六七二条第一号(前記昭和五三年(ヌ)第六五号事件については民訴法第六七二条第一号)に該当するから、競売法第三二条第二項によって準用される民訴法第六七四条、第六八二条第三項(前記同年(ヌ)第六五号事件については民訴法第六七四条、第六八二条第三項)により(不動産競落手続においては民訴法第六七二条第一号、第六七四条の規定が同法第五五〇条、第五五一条の規定に対する特則をなすから、同手続においてはまず右特則が適用されるべきである。)、原決定たる本件競落許可決定を取消し、かつ、本件競落不許の裁判をするのが相当である。

以上の次第で、本件各抗告は結局理由があり、原決定を取消し、本件競落不許を宣言すべきである。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 外山四郎 判事 海老塚和衛 清水次郎)

〈以下省略〉

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